「公聴会を開くべきだ」――。日本の拉致監禁の野蛮な実態を憂慮する米国の連邦議会議員らが、こう呼び掛けている。
拉致監禁被害者を支援するウォルター・フォントロイ元下院議員は現職を退いて、なお大きな政治力を持つ。公聴会開催を訴える政治家の一人で、マーチン・ルーサー・キング牧師の弟子として、共に公民権運動を闘った。
被害者の一人、後藤徹さんは一昨年、米国で行った拉致監禁を糾弾する運動のためにワシントンを訪れた際、フォントロイ氏に会う機会があった。
ニューベセル・バプテスト教会会長(牧師)でもある同氏は、日本で宗教迫害があることに非常な驚きを見せた。「同じキリスト教牧師がこのようなことをしているのは本当に恥ずべきことだ」と、拉致監禁にからむ牧師たちに強い憤りを表明し、後藤さんに「私は協力を惜しまない」と約束した。
黒人政治団体である「黒人議員連盟」の創設者にも名を連ねる同氏は、のちに連盟会長を歴任し米国で最も強大な影響力を誇る黒人団体の一つに育て上げた。オバマ大統領も連盟の会員だったといわれる。また黒人人権運動の生き証人で、全国黒人リーダー円卓会議を指導したことでも知られ、人種差別、宗教迫害に非常に敏感な人物だ。
フォントロイ氏らの働き掛けもあって、民主、共和両党の上・下院議員たちから、「拉致監禁問題はどうなっているのか」と問いただす手紙が、日本の国会議員に何通も送られてきている。昨年、秋元司参院議員(当時)がこれらの手紙を根拠に、国会でこの問題について質問し、公安担当の中井洽大臣(当時)から警察当局の公正な対応の基準を示す言質を引き出した。
日本に対して最も大きな外交的影響を及ぼすことができる米国。国際的ネットワークを活用して米国を動かし、そこから動きの鈍い日本政府に影響力を及ぼしたい。日本での強制改宗、拉致被害者たちやそれを支援する人、団体の世界に向けたアピール活動も盛んだ。
日本の強制棄教・改宗を非難している非営利教育団体ICRF(国際宗教自由連合)のメンバーらは昨年、毎週のようにワシントンDCを訪れた。上院、下院議員らと面会して、日本の拉致監禁による人権侵害問題について訴えるなどの議員渉外を活発化させ、その成果も表れ始めている。
議会公聴会が開かれ、米国議会が拉致監禁問題を正式に取り上げたということになれば、その影響は計り知れないほど大きい。ニュースが世界を走ることになる。
人権問題に熱心だった故トム・ラントス下院議員を記念してつくられたトム・ラントス人権委員会(下院)。ICRFは米国内で宗教の自由のために闘う民主、共和両党の2人の共同議長や所属議員たちにも、この問題を提起している。
同委員会は昨年6月、チベットの劣悪な人権状況を白日の下にさらし、9月には北朝鮮難民の中国領内での窮状についての公聴会を行い注目を集めた。
日本の拉致監禁事件の実態がここで公にされれば、この問題が一挙に米国議会の俎上に載る可能性も出てくるのである。
(「宗教の自由」取材班)