ニューヨークで最も洗練された通りといわれるマンハッタンのパーク・アベニュー。クリスマスのシーズンが来ると、夜間は通りの分離帯にある樹木がライトアップされ、左右に居並ぶビルに影が映ってできる幻想的な光景を思い出す人も少なくなかろう。
その48、49丁目境の東側、UBSと表示されたビル内にあるニューヨーク日本総領事館。UBS入り口の前で、米国の宗教指導者や人権団体と拉致・監禁被害者らが昨年10月12日に、拉致監禁の人権侵害行為に沈黙を続ける日本政府に抗議する記者会見とデモを行った。
米国の地域に根を張り、信仰や人権擁護の世論を代弁する多彩なキリスト教界の実情も反映して、参加した聖職者もさまざま。各宗派の聖職者2万2000人を代表し、宗派間の寛容と和睦を信条とした米国聖職者指導者連合(ACLC)のマイケル・ジェンキンス議長、ニューヨーク・ハンチントンコールドスプリング-ハーバー・メソジスト教会のルオン・ローズ牧師、フィラデルフィア・ペンテコステ教会のジェシー・エドワーズ司祭、国際宗教自由連盟ダン・フェファーマン会長ら。
韓国系の新聞、ラジオ、テレビメディアが集まった総領事館前では「聖職者と市民団体の指導者は拉致の阻止と被害者の解放を日本に要請する 人権と信教の自由を守れ」と大書きされた横断幕を掲げ、聖職者や被害者らが並んだ。マイクを握ったルオン・ローズ牧師が「我々の味方であり民主主義国家である日本で、このような拉致、監禁、宗教の自由の侵害行為が容認されているのに対し、衝撃を禁じ得ない。日本政府がこのような問題に沈黙するのは、憲法に明示された宗教の自由と人権擁護に対する深刻な違反だ」と訴えた。さらに「米国120人の牧師たちが手紙を介して、この問題への懸念を表明しており、1000人が人権侵害の中止を求める署名をした」ことを明らかにした。
その後、被害者の1人でニュージャージー州に住む樋口晴久さん(47)が、大阪にいた20代の時に、精神病院の独房に監禁され親や親族に強制棄教を迫られた体験を語った。
ベッドと便器、薄黒く光る冷たい木の床、湿った部屋の天井近くに一つの小さな窓があるだけ。そんな刑務所のような部屋で、薬漬けの日々が3カ月間も続いたという。そして「米国にいる被害者は多くはないのですが、粘り強く活動を続けています」と決意を語った。
また、米国人の夫と結婚した後、2度も拉致されたアントール美津子さん、父親に「教会を取ったら包丁でおまえを殺してわたしも死ぬ」と迫られたプレスキー美智子さんの体験報告が続いた。
抗議行動が続いている間に、ローズ牧師やジェンキンスACLC議長、ジェシー・エドワーズ司祭が、手紙を総領事館に届けた。
そこには「4300名もの多くの信者が日本において拉致されたとの信頼すべき報道があります。私たちは、現在アメリカに居住するそのような拉致の被害者数名に会い、インタビューを行い、深刻に憂慮すべき問題と確信いたしました」と記されていた。
手紙の末尾には、日本大使、ニューヨーク総領事とACLCの代表者との会合の提案がなされていた。
(「宗教の自由」取材班)